大迷惑




「ジェレミア、朝だぞ?」

呼びかけられて、その瞼がぱちりと開いた。
先に起きて着替えを済ませたルルーシュが、にこにこと笑いながら立っていた。
朝から機嫌がいいらしいことが窺える。
なぜかほっとして横たえていた身体を起こすと、ルルーシュの指がジェレミアのシャツのボタンに触れた。

「な、なにを!?」
「着替え」
「え?」
「一人じゃできないだろう?だから、お前の着替えを手伝ってやる」
「あ・・・」

すっかり忘れていた事実に気づき、ジェレミアは自分の手をじっと見た。
その間にもボタンを外すルルーシュの指は止まることがなく動かされ、全てを外し終えるとニヤリと歪んだ笑みをジェレミアに向けた。
寝起きのジェレミアはその笑みがなにを意味しているのかわからずに、首を傾げている。
そのままジェレミアの身体をベッドに押し倒して肌蹴た胸元にくちびるを落とすと、ようやく事態を理解したジェレミアが慌ててそれを静止しようとルルーシュの肩を掴んだ。

「・・・ッ!」

肩を強く掴まれて、ジェレミアの胸に埋めていたルルーシュの顔が苦痛に歪む。
それに気づき、慌ててその手を離すと、ルルーシュは埋めていた顔を上げてジェレミアを見下ろした。

「・・・ルルーシュ様・・・?」
「・・・やはりダメか・・・」
「は?」
「ショック療法とか荒療治ってのがあるだろ?やってみようと思ったんだが・・・俺の身体がもたなそうだ・・・」
「も、申し訳、ございません!!」

今や謝罪の言葉がジェレミアの口癖になってしまっている。

「お前の感じている顔も見てみたかったんだがな・・・」
「ご、ご冗談はお止めください」
「冗談?俺は冗談なんか言っていないぞ?・・・お前、この前のとき、俺に犯されて感じていただろう?」
―――・・・ば、バレてる!?

爽やかな顔で言われて、ジェレミアは真っ赤になった。
ルルーシュは満足そうな顔をして、そのままジェレミアのシャツを脱がせにかかる。

「お・・・お止めください!」
「なにを勘違いしている?着替えを手伝ってやるといっただろう?」
「し、しかし、これでは・・・」
「別に構わないだろう。今着ている服を脱がなければ着替えはできない。どこで脱ぐのも同じことだ!」

ジェレミアの抗議などまったく取り合おうとはしない、愉しげなルルーシュにされるがままになって、諦めたジェレミアは赤面した顔を横に背けた。
何とか無事に着替えを済ませてほっとしたのも束の間、ジェレミアには次の試練が待ち構えていた。
昨日の夜まではテーブルを挟んで向かい合わせに用意されていた食事が、今朝は隣り合わせに配膳されている。
驚いてルルーシュを見れば、ジェレミアの聡明な主君はニヤニヤと意味深な笑みを浮かべていた。

―――あ、悪魔だ・・・。この方は・・・、悪魔の申し子だッ!!・・・いやいや、主君に対してそのようなことは考えてはならない!きっと今のルルーシュ様は悪魔に取り憑かれておいでなのだ!そ、そうだ・・・そうとしか考えられない!!

ルルーシュの行動を正当化しようと、無理矢理それを悪魔の所為にする。
しかし、例えルルーシュ自身が悪魔であろうと、悪魔に取り憑かれていようと、ジェレミアの主君であることには変わりない。
「そこに座れ」と命じられればそれに従うしかないのだ。
諦めて、ジェレミアはガックリと肩を落とす。
「私はどうすればいいのですか」と上目遣いにルルーシュを見れば、ジェレミアの予想通りに「そこに座れ」と席を指定された。
並んだ席の左にジェレミアは座った。
恨めしげにルルーシュを見上げるが、その視線を気にせずにルルーシュはジェレミアの隣の椅子に腰を落ち着ける。
スプーンを手に取り、皿の上のスクランブルエッグを取り分けて掬うと、それをジェレミアの口許に運んだ。
ジェレミアにそれを食べさせようとしているのはわかっているが、素直に口を開けるのは抵抗があった。
年下の主に子供扱いされているようで恥ずかしい。
躊躇っていると、ルルーシュはまたしても黒い笑みをジェレミアに向ける。

「どうした?口を開けてくれなければ食べさせることができないだろう?」
「し、しかし・・・ルルーシュ様に、こ・・・このようなことまでしていただいては・・・」
「お前一人ではまともに食事もできないのだから仕方がないだろう。それに、俺が面倒を見ると言ったんだから、ごちゃごちゃ言ってないでさっさと口を開けろ」

言われてジェレミアは躊躇いながら小さく口を開けた。
開かれた口に食べ物を乗せたスプーンを押し込んで、ルルーシュは満足そうである。
「美味いか?」と聞かれて、ジェレミアは顔を赤らめて「はい」と答えはしたものの、実際は口の中に押し込まれた食物の味などわからないほどに動揺していた。
さらにもう一口食べさせてもらって、ジェレミアの鼓動が早くなる。
ルルーシュが自分の与えた食物を飲み込むジェレミアをおもしろそうに見つめていた。

「ル、ルルーシュ様・・・?私のことは後でもいいですから、先にご自分のお食事をお摂りください」
「ああ?・・・そんなことは気にするな」
―――・・・そ、そんなこと言わないで、お願いですから気にしてください!こ、これじゃぁこっちがルルーシュ様の視線が気になって食事が喉を通りませんッ!!
「なにか言いたそうな顔だな?」
「そ、そのようなことは・・・」
「なんだ?言いたいことがあったらはっきり言ってみろ」
「あ、あの・・・、は、恥ずかしいですから、あんまり見ないで、・・・いただけますか?」
「・・・恥ずかしかったのか?」
「は、はい・・・とっても・・・」

顔を真っ赤にして俯いているジェレミアに「それはすまなかったな」と、笑いながら返したルルーシュは確信犯の顔をしている。
そして至極自然な動作で、ジェレミアの口にしたスプーンを自分の口に運びかけた。

「ルルーシュ様!」
「・・・ん?」
「そ、それはダメです!いけません!!」
「なにが?」
「そ、そ、そ、その・・・わ、私が口にしたものをルルーシュ様がお使いになるなどは絶対にダメです!!」
「お、お前!?・・・なにか悪い病気でも・・・持っているのか?」
「持っていません!!・・・わ、私は悪い病気など持ってはいません!!・・・ですが!」
「だったら別に気にするな。いちいち持ち替えるのが面倒だ」
「ルルーシュ様!どうかお止めください!!」
「なんだ・・・お前、俺と同じスプーンを使うのがそんなに嫌なのか?」
「そ、そうではありません!ただ・・・」
「・・・お前が嫌なら仕方がない」

そう言って、ルルーシュは口許まで運びかけたそれを置き、用意してあった別のスプーンに持ち替えて自分の食事を始めた。
ジェレミアはほっと胸を撫で下ろす。
ジェレミア苛めを満喫しながら、ルルーシュの奇妙な朝食は続いた。
無論ジェレミアはルルーシュの予測不能な行動に怯えながら、食事など摂った気がしない。
これがしばらく続くのかと思うと気持ちが沈んだ。
朝食が済んだ後、片付けに現れた咲世子をルルーシュが呼び止めた。

「すまないが、手が空いたらジェレミアの髪を整えてやってくれないか」
「かしこまりました」

ある程度のことをルルーシュから聞いている咲世子は動じない。
寧ろ動じているのはジェレミアの方だ。
もうどうしていいのかわからずに、椅子の上で固まっている。

「そうだな・・・できるだけかわいく仕上げてくれ」
「かわいく・・・ですか?」

にやにやと笑うルルーシュの言葉に首をかしげて、咲世子は固まったままのジェレミアの顔をじっと見つめる。
そして、「かしこまりました。かわいく、ですね」と、にっこりと微笑んで返事を返した咲世子にも、それを命じたルルーシュにも、ジェレミアは深い絶望を感じていた。



鏡の前に座らされ、ジェレミアはドライヤーとブラシを巧みに使う咲世子の手の動きを、鏡を通してじっと見ている。
ルルーシュの言った「かわいい髪形」も咲世子の考えている「かわいい髪形」も、ジェレミアには想像がつかない。
いずれにせよ、ろくなことにならないのは目に見えてわかっていた。
絶望的な瞳で鏡の中の咲世子を見つめるジェレミアの視線に気づいて、彼女は手の動きを止めることなくにっこりと微笑んでいる。
ジェレミアにはその微笑が、悪魔の微笑みに見えて仕方がない。

―――・・・こ、ここは悪魔の巣窟だ!ルルーシュ様も咲世子も悪魔に魂を乗っ取られてしまっているのだ!嗚呼・・・私はなんと言うところに迷い込んでしまったのだ!?・・・に、逃げなければ!・・・なんとかしてここから逃げ出さなければ・・・!

逃走経路を模索して、視線を彷徨わせているジェレミアに、「終わりましたよ」と咲世子が声をかける。
我に返り、鏡に映し出された自分の姿を見てジェレミアは目を疑った。
驚いて鏡越しに咲世子を見れば、会心のできに彼女は満面の笑みを浮かべている。

「こ、・・・これは・・・?」」
「ルルーシュ様にかわいくといわれましたので・・・」

鏡に映されたジェレミアの髪型はいつもと変わらない。寧ろ自分で整えるよりも綺麗に仕上がっている。

「いろいろと考えて、これが一番似合っているのではないかと思ったのですが、お気に召しませんでしたか?」

そう言って微笑んだ咲世子が、ジェレミアには天使のように見えた。地獄に仏とはまさにこのことである。
しかしルルーシュはどうだろう。
これで納得してくれるのだろうか。
不興を駆って、今やジェレミアの天使となった咲世子に迷惑がかかるのではないかという不安も否めない。
咲世子はジェレミアのそんな不安など意に介さずに、「ルルーシュ様もきっとご満足なさいますわよ」と、穏やかに言った。



髪が整え終わると、ルルーシュが「ゼロ」の服装を整えて戻ってきた。
心配していたジェレミアの髪型については、ちらりと見ただけで何も言わない。
「ルルーシュ様」と咲世子が声をかけて、ルルーシュの傍でなにやらひそひそと耳打ちをする。

「思ったより早かったな」
「はい。今日の午前中にはこちらに届くとのことでしたので・・・」
「では向こうの部屋に置いておいてくれ。これから打ち合わせに出なければならない」

そう言って、ルルーシュはちらりとジェレミアを見る。
その視線につられて、咲世子もジェレミアに視線を向けた。

「・・・ああ、そう言うことだったのですね?」
「そうだ。では頼んだぞ」
「はい。かしこまりました」

意味深な笑みを浮かべている二人の視線を受けて、ジェレミアの背筋に冷たいものが走った。

「ジェレミア」
「は、はい」
「ついて来い」
「・・・はい!」
「くれぐれも言っておくが、余計なことは一切喋るな」
「承知いたしております」

歩き出したルルーシュの顔からは先程の笑みは消えている。
主の引き締められた表情が、ジェレミアに心地よい緊張感を与えた。
背筋をピンと伸ばしてルルーシュに従うジェレミアは、さっきまでとは別人のようだった。
その変わり身の速さにルルーシュは苦笑した。





黒の騎士団の打ち合わせは予想以上に時間がかかった。
目の前で繰り広げられる論争を、ゼロは黙って聞いている。
意見や採決を求められた時だけ口を開き、誰もがゼロの理路整然とした意見に従った。
その統率力は、軍人だったジェレミアの目から見ても見事としか言いようがない。
改めてゼロの優秀な頭脳に舌を巻き、そんな主君に仕えることができる自分が誇らしくさえ思えた。
だから、今朝のことなどジェレミアの頭の中からはすっかりと消えている。
椅子にゆったりと腰掛けて脚を組んでいるゼロの少し離れた後ろで、ジェレミアは背筋を伸ばした姿勢を崩すことなく控えて、じっとゼロの後姿に見入っていた。
そんなジェレミアは、やはり黒の騎士団の中では浮いた存在なのだろう。
好意的な存在とは受け取られてはいないジェレミアに対する悪辣な言葉が幹部の中からも時折聞こえた。
しかしジェレミアはその罵りとも取れる言葉を甘んじて受けている。
ルルーシュに言われたとおりに余計なことは一切喋らず、頑なに口を噤んでジェレミアは黙ってそれを聞いていた。
長い打ち合わせが終わり、出席者が続続と退室して行く中、ゼロはそれを気にも留めず、椅子に腰掛けたまま何かを深く思案しているようだった。
最後に扇が退席すると、部屋の中にはゼロとジェレミアだけが残された。
それでもゼロは何も言わずに考え込んでいる。
先程の協議事項についてでも考えているのだろうかと、思案に集中する主の邪魔にならないように、ジェレミアはその傍で身動き一つせずにその姿をじっと見つめていた。

「オレンジくん?」
「はッ!」

突然、屈辱の名で呼ばれて、ジェレミアは慌ててゼロの前に膝を着く。
ルルーシュがゼロの仮面を被っているときはその呼び名で呼ぶことが多いので、ジェレミアはそれをあまり気にはしていない。

「お前はどう思う?」
「・・・どう・・・と、仰いますと?」
「あいつ等の態度のことだ」
「・・・は?態度、ですか?」
「お前に対する敵対心は消えていないようだな?そうは思わないか?」
「私は、別に気にしていません・・・」
「居辛くはないのか?」
「大丈夫です・・・慣れていますから」
「・・・無理に連れて来て悪かったな」
「どうかお気になさらないでください。私は貴方の傍にいることができれば、それだけで満足です」

自分を気遣ってくれる「ゼロ」であるルルーシュに、ジェレミアは感動した。
「そうか」と言って、ゼロは椅子から立ち上がる。
膝を着いて見上げるジェレミアに手を翳し、そっと髪の毛に指を差し入れて撫でるように優しい仕草で掻き上げた。

「では、俺の言いつけを守って、いい子にできたご褒美をお前にやらねばならいな」
「・・・は?」

無機質な仮面越しではルルーシュの表情はわからなかったが、その声にジェレミアは途轍もなく嫌な予感を感じた。





画して、ルルーシュの部屋に戻ると、ジェレミアの予感が的中していたことを知った。
ゼロの仮面を外しルルーシュに戻った主君は、ジェレミアを無理矢理寝室に押し込めると、その服を脱がせにかかった。

「ル、ルルーシュ様!?こんな真昼間からなにをお考えなのですか!・・・お、お願いですから、お止めください!!」
「馬鹿。なにを勘違いしているんだ?」
「・・・か、勘違いもなにも・・・」

寝室で服を脱がされると言うことは、それしか考えられない。
しかし今のジェレミアは抵抗することができなかった。
制御の利かない力で下手に抵抗すれば、ルルーシュを傷つけてしまうかもしれなかったからだ。
だから逃げ回ることしかできない。
広くはない寝室を必死で逃げ回って、結局ジェレミアは部屋の隅に追い詰められた。
そしてルルーシュは追い詰めたジェレミアをベッドの傍まで引っ張って連れ戻すと、リボンのかかった箱を目の前に差し出す。

「こ・・・これは?」
「褒美をくれてやると言っただろう?俺からのプレゼントだ」

予想外の展開にジェレミアは呆然としてルルーシュの顔を見上げている。

「中身は服だ。お前の為に咲世子に頼んで取り寄せてもらったんだが・・・受け取ってもらえるか?」
「ルルーシュ様・・・!」
「着替えさせてやるから、おとなしくしていろ」
「は、はい!」

涙を流さんばかりに感動しているジェレミアに、ルルーシュは笑みを浮かべる。
感動のあまりジェレミアはうっかりと大事なことを見落としていることに気づいてはいない。
主の笑みには必ずと言っていいほど、裏がある。
そんな大事なことをジェレミアは見落としていた。
着替えが済んだジェレミアは、姿見に映し出された自分の姿に驚愕した。
それよりも、着替えさせてもらっている間にもなにかがおかしいことに気づくべきだったと、激しく後悔している。

「どうだ?なかなか似合っているぞ」
「ル、ルルーシュ・・・さま。・・・こ、これ、は・・・?」
「見てわからないのか?メイド服だ!」
「そ、それは・・・わかりますが・・・」

ジェレミアの聞きたかったことはそんなことではない。
なぜ自分がメイド服を着なければならないのか、と言うことが知りたかったのだ。
しかも矢鱈とフリルやらレースやらで飾られていて、その上スカートの丈が異常に短い。
露出度の高いそれは咲世子などがいつも着用しているメイド服とは明らかに用途が違う。

「気に入ってもらえたかな?」
「ルルーシュ様・・・これは・・・あ、あんまりです・・・」

半泣きになっているジェレミアに「そうか気に入ってもらえたか」と、ルルーシュはご満悦の様子で笑っている。
そして更に追い討ちをかける。

「では行こうか」
「ど、どこへ・・・!?」
「決まっているだろう?皆に見せに行くのだ!」
「そ、それだけは・・・それだけはどうかご勘弁ください!!」
「駄目だ!もう皆集まっている。諦めろ」
「皆・・・って?」

ルルーシュに手をぐいぐいと引かれて、メイド服のジェレミアが寝室の扉から姿を現すと、いつの間にか隣の部屋に集められていた咲世子やロロ、それにいつもは無表情なC.C.の表情が一瞬凍りついたように固まった。

―――サイバー・メイド・・・。

その場にいた誰もがその言葉を思い浮かべて、やがてそれは爆笑の渦へと変っていく。

「似合っているだろう?このミスマッチ加減がなんともいいではないか」
「ルルーシュ様。ちょっとやりすぎなのでは?」
「そうだよ兄さん。・・・ジェレミア卿がかわいそうに、泣いちゃってるよ?」

そうロロに言われてジェレミアを見れば、床に蹲って本気で泣いている。
ジェレミアを貶めている当のルルーシュは更に恐ろしいことを口にした。

「その格好で黒の騎士団の会議に出席すれば、お前に対する見る目も変るんじゃないのか?」

確かにジェレミアに対する黒の騎士団のメンバーの敵意剥き出しの眼差しは変るかもしれない。
しかしそれは、「敵意の目」から「変質者へ向けられる目」に変るだけだ。
決して友好的なものにはならないだろう。
ある意味、今よりもジェレミアの立場は崖っ淵だ。
「それだけはお許しください」と、泣きながら懇願するジェレミアは必死だった。
とても笑っては見ていられない。

「ルルーシュ・・・もうそれくらいにしておいたらどうだ?」
「なんだC.C.。お前らしくもないな、ジェレミアの肩を持つのか?」

C.C.は「ふん」と鼻で笑う。

「お前のためを想って言ってやっているのだ。あまりやりすぎると、大事な玩具に嫌われるぞ」
「そうか?・・・それもそうだな。では、黒の騎士団は勘弁してやろう」

ジェレミアが安堵したのも束の間、「その代わり」と、ルルーシュは言葉を繋ぐ。

「今日一日はそのままだ。服を変えることは俺が許さない」

「わかったな」と言われて、ジェレミアはこれ以上の妥協は望めないと判断して小さく頷いた。
どこまでも従順なジェレミアに、ロロは呆れて、咲世子は溜息を洩らし、C.C.はつまらなそうに部屋を出て行く。
そんなことだからルルーシュに玩具にされるのだと、ジェレミアに対して皆一様に同じ意見を持っていた。
それでもそれをジェレミアに言ったところで、きっと変らないのだろう。
牙を抜かれた犬は飼い主に従順だ。自分の認めた飼い主以外の言葉には耳を傾けることもない。

「ルルーシュ様・・・私は、なにをすれば・・・よろしいのですか・・・?」
「そうだな・・・とりあえず、リハビリでもしてみるか?」
「はい・・・!」

散々ルルーシュに弄ばれたにも関わらず、ジェレミアはとても幸せそうだった。